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サウナ室設計の裏側:心地よさの科学

サウナはただ汗を流す場所ではなく、身体と心を癒やす空間として、多くの人に愛されています。その一方で、サウナ室がどのように設計されているかについては、あまり知られていないことが多いです。

本コラムでは、サウナ室設計の裏側にある「心地よさの科学」を掘り下げてみたいと思います。


サウナの基本要素

サウナ室を構成する基本的な要素は大きく分けて4つあります。それは、温度、湿度、換気、そして空間デザインです。この4つが絶妙に調和することで、理想的なサウナ体験が生まれます。

  1. 温度 サウナ室の温度は、心地よさを決定する最も重要な要素の一つです。一般的に、フィンランド式サウナでは70–100℃の温度が推奨されます。適切な温度を維持するために、断熱材やヒーターの配置が緻密に計算されています。例えば、ヒーターの熱が均一に行き渡るようにするため、空気の流れをシミュレーションして設計します。
  2. 湿度 湿度もサウナの快適性を左右する重要な要素です。中高温を特徴とするフィンランド式サウナとは異なり、日本では湿度の高いスチームサウナも人気です。フィンランド式サウナの場合、湿度をコントロールするためには、ロウリュ(熱した石に水をかける行為)が用いられることが多いですが、この際の水の量やタイミングは、熱した石の量とのバランスが要になります。石が少ないと蒸気を多く発生することができませんので、器に水を浸して加熱する飽和蒸気やさらに熱を加える過熱蒸気(madsaunist スチームジェネレータが有名)を導入する手段もあります。
  3. 換気と空気の流れ サウナ室内の換気と空気の流れは、快適性だけでなく、安全性にも大きな影響を与えます。サウナ室内で新鮮な空気が適切に循環することで、息苦しさを防ぎ、熱が均等に分布します。給気口と排気口の配置やサイズ、換気システムの効率が非常に重要であり、機械換気と自然換気を選択します。一般的には排気孔を大きめにして、ボリュームダンパーなどで調節します。自然換気の場合、給気口は通常、ヒーター付近の低い位置に設置され、外気を取り込むことで新鮮な空気を供給します。ストーブ付近とする理由は2つあるとされていて、外気の冷たい空気を人に感じにくくするためとストーブ付近は熱流が多くあるので新鮮空気を効率よく拡散する効果があります。一方、排気口は対角線上の高い位置に設けられ、室内の古い空気や湿気を排出します。ただし、これはあくまで自然換気に限ります。機械換気であれば、排気口を高い位置に設ける必然性はないと考えます。   空気の流れ サウナ室内で新鮮な空気が適切に循環することで、息苦しさを防ぎ、熱が均等に分布します。そのためには自然な空気の流れを作り出す設計が求められます。ヒーターの設置場所や高さ、ベンチの配置、ドアの位置、天井高や形状の工夫と給排気のバランスを意識して、このような問題を解決します。「ロウリュの法則」のそれは、まさにこのために考案された手法です。
  4. 空間デザイン サウナ室の形状や素材も心地よさを左右します。木材は断熱性が高く、触れても熱くなりにくいため、サウナ室の内装材として最適です。タイルや石も有効的ですが、肌に触れないように注意しましょう。ベンチ座面にタイルを施した施設を見たことがありますが、輻射熱により熱くなって座ることができません。スチームサウナであれば問題ないですが高温ドライサウナでは不向きです。水洗いのための床だけはタイルは適切です。また、座席の配置や高さは、熱の分布とユーザーの快適性を考慮して設計されます。公衆サウナでは難しいですが、座って温まるより足を上げて温まる、すなわち寝る姿勢のほうが均一に温まるので体には良いとされ、個室サウナでは採用例が多くあります。

断熱性能の重要性

サウナ室の断熱性能は、エネルギー効率や快適性に直接影響します。天井や壁断熱が不十分であったりドアやガラス窓が大きかったりだと、室内の熱が外に逃げやすくなり、ストーブの稼働時間が長くなります。このため、設計段階で断熱材の選定と施工が非常に重要です。

  1. 断熱材の選定 一般的に、サウナ室にはグラスウールや硬質ポリウレタン(軟質はダメ)といった断熱材が使用されます。これらは熱伝導率が低く、効率的に室温を保つことができます。また、壁や天井だけでなく、床の断熱も重要です。床からの熱損失を防ぐことで、より安定した室温が実現します。
  2. 気密性の確保 気密性を高めることで、サウナ室内の熱と湿度を保つことができます。扉や窓の隙間を最小限に抑える設計や、特殊なシーリング材の使用が推奨されます。

ストーブの選定

サウナの心臓部とも言えるストーブの選定も、快適なサウナ体験を支える重要な要素です。

  1. 電気ストーブ 現代のサウナでは、電気ストーブが一般的に使用されています。電気ストーブは操作が簡単で、温度管理が容易です。また、安全性が高く、家庭用サウナにも適しています。消費電力や出力を考慮して選定することが重要で、一般的には1㎥(立米)あたり1kw(キロ)のスペックが求められます。
  2. 薪ストーブ 自然な炎が魅力の薪ストーブは、独特の雰囲気と優しい加熱能力を持ちます。薪ストーブを選ぶ際には、設置スペースや換気システムを十分に考慮する必要があります。また、薪の種類や保管方法も快適性に影響します。
  3. ガスストーブ ガスストーブは、短時間で高温を実現できるのが特徴です。商業施設などで広く使われており、燃料コストを抑えつつ効率的に室温を上げることができます。イニシャルコストは高いですがランニングコストは大きく貢献し、電気の1/5とも言われています。昔ながらのスーパー銭湯で多く採用されているのはそれが魅力だからです。ただし、小規模サウナでは適切なサイズはありません。

心地よさを科学する

サウナ室の設計には、単なる経験則だけでなく、科学的な知見が数多く取り入れられています。以下にその具体例を挙げてみます。

  1. 視覚の快適性 サウナ室内の照明は、視覚的な心地よさを左右します。暖色系の間接照明を使用することで、目に優しくリラックスできる空間を作り出します。また、光の強さや配置は、陰影を利用して空間の奥行きを演出することも可能です。
  2. 聴覚の影響 サウナ室内の音響環境は、リラックス効果に直結します。無音や静寂を好む人もいれば、波音や鳥のさえずりなどの自然音を取り入れることで心地よさを感じる人もいます。これらは、利用者の好みに応じて調整可能な設計が理想です。
  3. 触覚の心地よさ サウナ室内で使用される素材の触り心地は、快適性に大きく影響します。例えば、木材の柔らかい質感や熱くなりにくい性質は、サウナ室において特に重要です。また、座席や背もたれの温度や滑らかさも触覚的な快適性に寄与します。
  4. 嗅覚の効果 サウナ室内で使用されるアロマオイルや木材の香りは、嗅覚を通じてリラックス効果を高めます。特に、ヒノキやスギといった天然素材の香りは、日本のサウナ文化において好まれています。また、「アルテミスの薬草店」のように利用者にリフレッシュ感を与えるために、ミントやレモングラスの香りを加えることもあります。ヨモギやほうじ茶、熊笹などのハーブもとてもポピュラーです。
  5. 味覚と水分補給 サウナ体験における味覚の快適性は、直接的ではないものの、重要です。例えば、サウナ後に摂取する水やドリンクの味わいが、体験全体の満足感を左右します。特に、電解質を含んだ飲料は、体内のバランスを整えるために適しています。最近は、サウナ室内でも飲料水を提供する施設も増えてきました。

日本のサウナ文化と設計

「ととのう」という言葉が流行し、サウナのブームが再燃した以前から関西地域のように温冷交代浴という入浴文化はありました。その背景から、現在のサウナ文化は深く関わっていると思われます。日本では、温泉や水風呂とセットになったサウナが一般的であり、そのレイアウト設計にも特有の工夫があります。

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  1. 動線の工夫 サウナ室から水風呂、そして休憩スペースへの動線がスムーズであることが重要です。この動線がスムーズでないと、せっかくのリラックス効果が半減してしまいます。そのため、設計段階から動線をシミュレーションし、無駄な動きを排除します。
  2. 地域性の反映 日本各地の気候や文化を考慮し、地域に根ざした設計が求められます。例えば、寒冷地では高温で短時間の利用を想定した設計が一般的ですが、温暖な地域では長時間リラックスできる低温サウナが好まれることがあります。また、地元の素材やデザインを取り入れることで、地域の魅力を活かしたサウナが生まれます。

結論

サウナ室設計には、さまざまな科学的な知識と工夫が詰まっています。温度や湿度、換気、空間デザイン、ストーブの選定、断熱性能、そして五感に働きかける要素など、これらの要素が総合的に組み合わさることで、心地よいサウナ体験が実現します。次回サウナに入る際には、その背後にある設計の工夫や技術に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

craftmans

一級建築施工管理技士、 サウナ・スパプロフェッショナルやDIYアドバイザーの資格を持つ。 商空間作りが専門で設計施工に携わった物件は3000件を超える。 多くのサウナ温浴施設の施工や設計のお手伝いに関わり、サウナ事業を学ぶため全国のサウナやフィンランド・ドイツ・エストニアにも渡って知見を広めている。 趣味で自宅のウッドデッキも3回作るDIYer。 DIY|手作りウッドデッキ|IKEA|台湾|ラブラドール|北海道釧路市出身|サ旅|サウナ温浴施設施工|サウナDIY|サウナ作りのご相談お気軽にどうぞ https://x.com/sauna_ji

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